胃腺癌のフレンチブルドッグの1例
動物がん診療サポート 池田雄太
はじめに
犬ではヒトとちがい、胃がんの発生率は低く、全腫瘍の1%未満である。しかし発生した場合その悪性度は極めて高く、周囲組織やリンパ節に高率に転移を起こす。胃がんからの出血や嘔吐、食欲低下や下血により患者のQOLは低下する。これらの症状を緩和するために胃の部分切除は有効である。今回、胃がんからの出血による貧血を呈したフレンチブルドッグにおいて胃部分切除(ビルロート1型)を実施し良好なQOLを維持している症例を報告する。
症例
フレンチブルドッグ メス 12歳
慢性の嘔吐、貧血の精査治療を目的に紹介受診された
既往歴:特になし
体重11kg 体温38.3℃ 心拍数140回/分 呼吸数30回/分
一般状態 :元気食欲不振、嘔吐 黒色便あり
一般身体検査 :可視粘膜の蒼白
レントゲン検査:特記すべき異常所見なし
内視鏡検査:胃の体部に大型の潰瘍が確認できた 潰瘍部位を生検
→腫瘍細胞はみとめられず。
CT検査:潰瘍周囲の胃壁は肥厚し、胃リンパ節は軽度に腫大していた
血液検査:重度貧血あり
診断 胃腺癌や大型の胃潰瘍うたがい
治療
重度貧血に対して、輸血を実施した。また胃粘膜保護剤や胃酸分泌抑制剤にて貧血は中程度まで改善した。貧血の改善に伴い活動性も改善したため胃の部分切除を実施した。
胃の腫瘤は胃体部に存在し、十二指腸への浸潤は認められなかったため、胃体部と幽門切除を行い、胃十二指腸吻合を行うビルロート1型を計画した。
術後の経過は良好であり、嘔吐や貧血も改善した。
病理診断
胃腺癌 リンパ節転移あり
考察
犬の胃腫瘍はその多くが悪性腫瘍であり、腺癌が大部分を占める。その他には平滑筋腫やポリープ、GISTなどの発生が認められる。胃腺癌の挙動は悪く、早期に転移や再発を起こすことから、手術をした場合でも平均生存期間は3~6ヵ月と報告されている。
しかし、嘔吐や吐血、下血などの症状が酷く認めれる場合、胃切除をすることによって劇的に症状が緩和されることも多いため、胃の部分切除は治療の有効な選択肢となる。
動物の場合は腫瘍が進行してから発見されることが多く、治療が困難な段階で診断されることが多い。そのため慢性嘔吐などで対症療法を行っても改善が認められない場合は、内視鏡などを実施することが早期発見につながると考えられる。