放射線治療を併用した軟部組織肉腫の犬の1例
動物がん診療サポート 池田雄太
はじめに
放射線治療は腫瘍の治療における3本柱(外科治療、化学療法、放射線治療)の一つである。
放射線治療を行うには放射線装置が必要であり、獣医療においては各大学病院などの施設に設置されている。放射線治療は様々な部位の腫瘍に対して適応となるが、腫瘍の放射線感受性、正常組織の耐容線量、使用する機器などの状況に応じて適応を見極める必要がある。
今回、犬の前肢に発生した軟部組織肉腫において計画的辺縁切除を実施しその後補助療法としての放射線療法を行った症例を得たので報告する。
症例
13歳 シベリアンハスキー メス
肘関節外側に発生した腫瘍の治療目的に勤務先の動物病院を紹介受診された。
腫瘍は病理検査にて軟部組織肉腫と診断されていた。
検査所見
体重25kg 体温38.0℃ 心拍数120回/分 呼吸数30回/分
一般状態 :良好
一般身体検査 :右前肢に6×6㎝の腫瘤あり。腫瘤はやや可動性があり、周囲との固着はなかった。
体表リンパ節の腫大なし
レントゲン検査:特記すべき異常所見なし
血液検査 :異常所見なし
治療
術後の放射線治療を計画する、計画的辺縁切除を実施した。術後2週間にて抜糸を行った。
その後残存する腫瘍細胞に対して「低分割放射線照射」を実施した。照射計画は
手術部位から2cmの範囲に対して、1回/週 8Gy×4回 総線量32Gyとした。
手術および放射線治療ともに問題なく実施され、現在再発もなく良好に経過している。
考察
本症例の腫瘍は大型であり、根治的切除には断脚術が必要と考えられたが、初診時に歩行状態も良好であり、疼痛も認められておらず、ご家族は断脚はご希望されなかった。
軟部組織肉腫は局所再発率が比較的高いため、腫瘍の辺縁切除のみでは再発が懸念されたため、
術後の放射線療法を計画した「計画的辺縁切除」を実施した。
術後の経過は良好であり、抜糸後から放射線照射を実施した。
照射終了後1ヶ月には脱毛や皮膚の発赤などの軽度の放射線障害が認められているが、
局所再発もなく非常に良好に経過している。
犬の軟部組織肉腫において、拡大切除が困難な場合に、術後の放射線療法を計画した「計画的辺縁切除」は有用である。